自治体DX実務編④全職員のスキルセット

自治体DX実務編④全職員のスキルセット

目的に応じたスキルアップの底上げ

デジタル技術の活用を業務ベースで活かすためには、「みんなが使える」という状態を作れるかが鍵になります。逆にあの人は使えて、あの人は使えないという状態は、デジタル技術の効能を最大限に活かすことができず、逆に新たな非効率が生まれたり、職員のアナログ回帰が始まったりする可能性があるためです。

そこで、職員のスキルセットを向上させる際には、少なくとも組織のまとまりの単位毎に全体の底上げを図ることが大切です。

実務の視点:何のスキルセットを底上げするのか?

この際に重要になってくるのが、何のスキルセットを底上げするのかという点です。この点が曖昧ですと、目標も定まらず、研修会を開催しても漫然としてしまいます。

私は、まずDXを推進する際に全職員が身につけるべきスキルセットは、テレワークを問題なくできるツール活用のスキルセットであると考えています。理由は、業務上の必要性があるだけでなく、テレワークができるようになる過程で、各職員が様々な業務上の課題に気づくことができるためです。

では、テレワークを実施するために必要なスキルセットとは何でしょうか?それは、ビジネスチャットツール、オンライン会議ツールそしてクラウドストレージ(または各種クラウドサービス)の3つです。私はこの3つをテレワーク三種の神器と呼んでいるのですが、とりあえずこの3つのスキルセットを組織内の全ての人が持つことを目標にすると良いでしょう。

これらの全てにおいて無料版のサービスが存在するので、本格導入する前に、試験的に試すことも可能です。

ポイントは、習うより慣れよで、とりあえず触って、使ってみることです。

 

実務の注意点:あれこれ範囲を広げない

ひょっとしたら、たった3つで良いのと思われた方もいるかもしれませんが、様々な行政組織でスキルセットのボトムアップを試していますが、この3つで十分です。

というよりも、この3つが満足に使えない中で、他のことに手を出すと、落伍者が出てきます。大切なことは、「みんなが持つべきスキルセットは何か?」ということです。

また、組織内の全ての人が、この3種の神器を使いこなして業務に当たられるようになると、自ずと向上心が生まれ、様々なクラウドサービス等の活用を応用的に行えるようになります。理由は、3種の神器が当たり前に用いることができるようになったことで、他のツール等に視野を広げ、自ら改善を考えていけるようになったためです。

 

実際の事例:全ての職員がテレワークを体験(磐梯町)

磐梯町では、職員研修の一貫として、全ての職員が町内のワーケーションスペースで2日間テレワークを体験しました。

その際に、全ての職員がビジネスチャットツールに登録し、オンライン会議やクラウドストレージを活用する機会を持ちました。テレワークをせざるを得ない環境に身を置くことで、スキルセットが結果的に身につく仕組みです。

また、これらのツールの活用に明るい職員を配置することで、研修に来た職員に対して寄り添った支援を行っています。

また、研修を受けた職員に事前事後のアンケートを取ることで、テレワークを実施する際の課題を洗い出す等、戦略的な側面もあります。

アンケート結果からは、やってみたら意外とできたといった肯定的な意見も多く、寄り添う職員を配置して、習うより慣れよの取り組みが一定の効果をあげたことも伺えます。

 

雑観:スキルセットの底上げに王道はなし

パソコンが役所の業務で使われ始めた20年前くらいを思い出してください(その当時役所にいた人はですが)。アナログ派の職員も、ワードプロセッサで十分派の職員も、その必要性をそこまで強く感じられなかったはずです。

しかし、今では全ての職員が当たり前にメールやインターネットを活用し、表計算ソフトで資料を作成しています。

この間のギャップを埋めたのは、地道な職員のスキルセットの底上げ作業です。

スキルセットの向上には王道はありません。しっかりとした目標を立てて、組織的かつ戦略的に行っていきましょう。

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菅原直敏(自治体DX白書共同編集委員長/磐梯町CDO)