【#ホンネのDX】改革を進める上で思うこと|武蔵大学教授 庄司昌彦さん(2)

#ホンネのDX 3回連続でお届けする武蔵大学社会学部教授、庄司昌彦さんとの対談。1回目では、地域のことは地域で解決できる「自分たちでやっていく社会」をつくりたいと、自身が社会活動から大学への道を選んだ経緯を語った庄司さんでした。

今回は、そんな庄司さんが関わる、自治体のデジタル改革の取り組みについて、具体的な内容を伺います。

「2040問題」これが最後のチャンスかも

菅原:ちょうどいま政府でDXのさまざまなことを決めていて、その中心におられると思います。昨年末に自治体DX方針が固まり、今は手順書を作っていらっしゃいますが、そういった政府の動きや先生のやられていること、その中でのご苦労やお考えを聞かせていただけますでしょうか。

庄司教授:はい。「デジタル改革」と呼んでいますが、いろんなことが同時に起こっています。2018年くらいから、いわゆる「2040年問題」をどうするかということが議論されています。自治体の負荷を下げて行政を維持しなければならないという流れで、ITの話が出てきていると理解しています。2040年に団塊ジュニアが65歳以上になると、人口ピラミッドでは団塊ジュニアがどーんと年齢の高いところにいてその下が細い、いわゆる逆三角形になるんですね。一番バランスの悪い時代に入っていくわけです。

菅原:人間の体だったらいいんですけどね、逆三角形って。

庄司教授:そうですね。人口ピラミッドの逆三角形は、高齢者が多いので自治体の行政ニーズは多くなります。そこをなるべくスマートに解決して、人は人しかできないことをやる、人じゃなくていいことはどんどん機械にやってもらって、なるべく負担を少なくして行政を維持発展させられないかというのが問題意識の最初です。

自治体のシステムは本当にバラバラだし、行政の仕組みは極めて精緻にできているので、標準化はとてもたいへんだと思います。それを、2040年までにあらゆるシステムでやりましょうというのは「本当にできるかな」って思います。でも、今やらないと10年後もハンコを押してファックスで送って、というふうになる可能性もあるよね、と話していました。そこに新型コロナウイルス感染症が発生して、政権がデジタル化にものすごく力を入れたおかげで、一番最初の「IT革命」と言っていた頃と同じくらいすごい追い風が吹いているとは思います。

今、政府は17種類の基幹業務システムについて標準化、共同化をしましょうと言っていますが、膨大な作業が発生するし、お金も労力もかかります。でも、今やらないとこれが最後のチャンスかもしれません。政権としての「5年」という目標は、自治体の現場やベンダー企業などからもたいへんだという声が上がっていますが、それくらいのつもりでやらないと、機運は過ぎてしまいます。なんとか無事に5年でできるように、いろんなことに気を遣っているというところですが、そういう実態がわからない方は、天才エンジニアが設計して国が1つのシステムを作って提供すればいいんだ、とおっしゃるわけです。

ゼロからではない難しさ

菅原:1つのシステムを作るというのは、逆になぜできないのですか? デンマークなどはそうですよね。

庄司教授:いや、ゼロから作るならいいんです。ゼロから作るならそれもできるかもしれないんですが、極端に言うと今、1,700とおりの自治体システムがあるのをまとめていこうとしているわけです。

菅原:そうですね。

庄司教授:銀行のシステム統合もそうですが、個人が携帯を乗り換えるだけでもデータを移すのはたいへんですよね。あるいはパソコンを買い替えたとき。ゼロからパソコンを買ってきて使い始めるなら全然なんともないのですが、今あるものを別環境で動かすというのは、ものすごくたいへんなことなんだなと痛感しています。

菅原:どっちが安いのか、どっちが効率的なのかというと、ゼロベースで作ってしまったほうがいいのかなと。でもそれも政治の意思決定がないとできませんよね。

庄司教授:相当な意思決定が必要だと思います。ただ、今やっている改革が私は長期的には正しいと思っていて、特に私がゆかりの深い自治体システムで言えば、標準化してクラウドに乗せます、共同利用しますということになるので、一回やればそこから次のものに乗り換えるのは簡単になってくるはずなんですね。もう1,700とおりではなくなりますので。ここを今やれば、5年が終わった後にもっと効率的なシステムを作れるはず、ということでやっています。

コラボレーション——餅は餅屋に

庄司教授:標準仕様書というのは公開の場で作って全部公開して、いろんな方にご意見をいただいて作っていきますし、どんどんバージョンアップしていくものです。そこに皆さんのご意見をいただいて間違いがあれば指摘していただいて、標準仕様書をよりよいものにしていく。オープンソースじゃないんですけども、公開性を重視しています。

菅原:進め方としてはオープンソースですよね。作り方も、ノーコード、ローコードみたいなところに移るものもあるでしょうし、もっと大切なのは、UX/UIのデザインをちゃんと設計できる人ですよね。

庄司教授:はい、先ほどの介護保険の例のように、データベースであるとか、データを通信でやり取りするやり方とか、そういう基盤の部分は共通でやりましょう、そのほうが効率的だし、そこは共通化しましょう、と。しかし、職員の方が触れる、あるいは市民の方が触れるインターフェースはそれぞれが工夫して使いやすいものにしてもいいんじゃないでしょうか。

菅原:そうですね、まさにそう思います。でも、俯瞰して見られる人間って僕は大切だと思っていて、それでいろんなものを調整して、むしろそこに専門家を役割としてあてていく、それをコミュニケーションしていく。まさに先生が先ほど言われていたコラボレーションですよね、扇の要となる人が今のデジタル化には必要だなと、私は現場にいて思っています。

庄司教授:そうですね。その人は別にスペシャルな技術者である必要はないんですよ。その技術があるということ、それがどういうものかをわかっていればいいわけで、餅は餅屋に頼めばいいわけです。

菅原:そう、ここは餅屋に頼むところなんだとわかることが大切ですよね。餅屋がこっち側に入ってしまうと餅しか見えなくなる。どっちがいい悪いでなく、役割分担ですよね。

庄司教授:そうですね。やればやるほど自治体DXは技術の問題というよりは、仕事の仕方の問題だし、意思決定の問題だなというふうに思います。

菅原:まったくそうですね。

次回は、デジタル改革の先にある幸せとは

庄司昌彦さんとの対談は次回が最終です。
次回は、自分で工夫をしていく幸せについて、互いの考察を述べていきます。

武蔵大学
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