【#ホンネのDX】ダブルミドルな日本モデルのよさを誇りに|一般社団法人スマートシティ・インスティテュート理事 南雲岳彦さん(2)

日本のスマートシティにおける現状と課題

#ホンネのDX  3回連続でお届けする一般社団法人スマートシティ・インスティテュート理事 南雲岳彦さんとの対談。1回目では、南雲さんが目指すWellbeingなスマートシティと、国際社会で輝きを失わない日本について語っていただきました。

今回は、そんな南雲さんが考える日本のスマートシティの現状と今後の展望について、具体的な内容を伺います。

ストレスフルな歴史の上に

菅原:前回、スマートシティの情報発信を通じて目指すものについてお話を伺いました。
現状、日本ではスマートシティもスーパーシティ※1という言葉にひっくるめてしまって、言葉だけが一人歩きをしているようでもありますが、海外での事例も踏まえながら日本のスマートシティの現状と課題からの展望のようなものをお話していただいていいでしょうか。

南雲理事:海外の事例でいうとやはりお尻に火が付く理由が明確だったところがうまくいってるんだと思うんです。例えばエストニアのような何もないところからの国作りであったり、アムステルダムのようなテクノロジーやサーキュラーエコノミー※2を使わないと沈んでいってしまう事情であったり、バルセロナもオリンピックが終わったらさーっと資本が抜けてしまって、もう一度一から考えたときに何が大切かということで、うわべだけのモータリゼーションだけではないものをやらなきゃいけないという思いがあったり。

苦労の歴史の上にスマートシティづくりというのは成り立っていて、最初は色んな学びから入っていったんだろうけれど、自分の詰将棋のやり方というところにたどり着いていったという経緯になっています。
日本の場合でもテッキー君(テクノロジーに詳しい技術者)が面白いぞ、とやってきたことが市民には浸透してこなかったり、助成金が切れるとそこで止まってしまったり、霞が関がグランドデザインを作っても現場感覚がなかったり、ストレスフルな歴史がありました。

今まさにもうべったり何かに頼るのではなく、自分達の頭、そして地域で考えなくてはいけないね、というところにたどり着いていると思うんです。
日本のモデルって、大きな圧力でトップダウンに近いものでもないし、小さいところでクローズでやるものでもない、オープンとクローズの真ん中くらいのところなんです。
トップダウンもあるんだけどボトムアップも大切で、それもまた真ん中、ミドルぐらいにいるんです。
二つの意味でのミドルなのも特徴になっていて、これを真似できる国はそんなにないんですね。
テクノロジーも全部持っている、資本もある、みんなその基礎体力というかそれが非常に高い国。
なのでダブルミドルのところをうまくひも解いて、ど真ん中にいるということに自信を持つべきと僕は思っていて。
それを伝えるための装置としてスマートシティ・インスティテュートみたいなものが育ってきたのかなと思っていますね。

※1 スーパーシティ:地域の課題を最先端の技術で解決するために、地域と事業者と国が一体となって目指す取り組みをさします。
※2 サーキュラーエコノミー(循環経済):製品と資源の価値を可能な限り長く保全・維持し、廃棄物の発生を最小化した経済をさします。

ローカルコモンズのDXという方程式

菅原:すごい分析ですね。今聞いただけで日本の今のストレスフルな格闘の歴史が分かるというか。
日本はバブル時代にほぼ完成されすぎてしまって、それから何も変わらずみんな満足してしまっている。
でも構造的な問題は色々あって、テッキー君というか技術屋さんがメインになりすぎてビジョンやポリシーが弱かったということや、補助金行政の弊害であったり。
一方で日本って技術はまだ高いんですよね。資本力も誰にも負けてないという中で、危機感もあってミドルモデルを作っていける。
ストレスフルな歴史は無駄ではないのですが、どうやったらブレイクスルーできるのか、いまだに苦労はあると思うのですが。

南雲理事:やはりこれは元気のあるローカルで形を作っていくというのがブレイクスルーするコツだと思っています。
先ほどご紹介していただいた自治体はそのポテンシャルを持っているところだと思っているんですね。
市場中心のモデルでもないし、政府中心のモデルでもない、真ん中のモデルというのはコモンズと言われるモデルに近くて、実はローカルコモンズというもののDXをやるという方程式なんです。
その時にオープンで世界の技を持ってくる部分と、日本人的なすり合わせというクローズな部分の匙加減が地域ごとに少しずつ違うんですが、そこを形式知化するというのがまだできていないんです。ここが出来てくるとあとは前に進むだけです。
それをやらなければならないのはアーキテクト※というものなのですが、やりながら学びながらという形で今進んでいるんですね。なので、あと3年5年かかると思っています。

※アーキテクト:スマートシティにおけるアーキテクトとは、スマートシティの総合プロデューサー的な存在で、スマートシティの総合的な設計や構築をリードする存在をさします。

日本社会にあったコモンズを再定義する

菅原:アーキテクチャ設計が大切というのはわかりますが、色んな自治体を見ていると結構個別の技術に寄りがちな気がします。
逆にそういう人たちに走ってもらって、事例を作ったところに行けーって言った方がいいのでしょうか。

南雲理事:アーキテクトのイメージ化がみんな違うんだと思うんです。菅原さんもちょっと触れられたのはテクノロジーよりのアーキテクチャの話ですので。
日本社会のアーキテクチャって先ほどコモンズという言い方をしましたが、生活協同組合的なものがあったり、神社仏閣には檀家さんがいたり、自分の持っているものを拠出しながらその町を作っていくという歴史がありますが、それをもっとアーキテクチャの中に刷り込んでいくということだと思うんです。
テクノロジーのアーキテクチャはあるのだけれど、組織とか人間とか社会側のアーキテクチャづくりのところがまだ弱いんだと思います。
今まで昔の日本社会にあったコモンズというものがあり、それをもう一回再定義する、ブラウンフィールド※をやらなきゃいけないんですよ。そこが抜けていると思うんです。

※ ブラウンフィールド:都市設計の取り組みにおいて、一から街を作り替えるのではなく既存の街を作り変えるアプローチ法。

次回は、生活に溶け込むテクノロジーと幸せにつながるスマートシティ

南雲岳彦さんとの対談は次回が最終です。
次回は、南雲さん自身が考える幸せにつながるスマートシティについて、互いの考察を述べていきます。

一般社団法人スマートシティ・インスティテュート
https://www.sci-japan.or.jp/