各自治体の取り組み 「官民共創のプラットフォーム」 広島県、愛媛県
自治体DXを推進する際、自治体の職員だけでは人的資源が量・質ともに不十分なことが少なくありません。それは、行政職は一部の技術職等を除けば行政事務を業務とするために採用されており、プロダクトやサービスの開発や実装についての豊富な知見を有していないことがあります。
例えば、行政のDXを推進する上では、その主体は行政ですが、実際のデジタル技術等については、民間企業のプロダクトやサービスを組み合わせることになり、大なり小なり、アウトソーシングという形で対応しています。
また、地域や産業におけるDXを推進する際には、その主体が民間企業・団体・個人であり、自治体はそれを支援する立ち位置になることが一般的です。したがって、自治体がDXを推進する上では、民間のプレイヤーと上手に付き合っていくことが重要な要素となります。
このような中、DXの切り口から、自治体と民間のプレイヤーが共創するとりくみを仕組みとして整備する自治体が特に県レベルで増加しています。今回は、瀬戸内海を挟んで向かい合う広島県と愛媛県の官民共創の取り組みについて概説します。
ひろしまサンドボックス
最初の事例は、ひろしまサンドボックスです。
広島県では、湯崎英彦知事が比較的早い段階でDX推進の方向性を打ち出し、2018年度にひろしまサンドボックスを立ち上げ、民のプレイヤーの知見と活力を活用した実証実験等を行う官民共創の仕組みを整備しました。
コンセプトは、「作ってはならし、みんなが集まって、創作を繰り返す、『砂場(サンドボックス)』のように何度も試行錯誤できる場」です。具体的には、AI/IoT、ビッグデータ等の最新のテクノロジーを活用することにより、広島県内の企業が新たな付加価値の創出や生産効率化に取り組めるよう、技術やノウハウを保有する県内外の企業や人材を呼び込み、様々な産業・地域課題の解決をテーマとして共創で試行錯誤できるオープンな実証実験の場とされています。
推進母体として、ひろしまサンドボックス推進協議会を設立し、以下の5つの会員区分となっています。
- プレイヤー/法人、個人事業主、社団財団NPO法人、組合、学校法人、学術機関、自治体、金融機関 等
- アドバイザー/IT系企業、ベンチャー、研究機関、施設、学術機関、メディア 等
- インベスター/VC、金融機関、投資機関 等
- プラットフォーマー/通信事業者、通信インフラ提供者 等
- オブザーバー/見学者 等
2021年5月時点で、9つの実証プロジェクト、7つの行政提案型プロジェクトが振興しています。実証実験事業は、農林水産業、観光、交流・連携基盤、産業イノベーション、交通、健康・福祉と多様な分野に渡ります。また、行政提案型プロジェクトについては、法面崩落の予測、除雪作業の支援、路面状態の把握、簡易型水位計、イノシシ対策、新たな観戦・応援スタイル、道路付属物の自己点検システムの構築等、具体的な内容が目立ちます。
DXのファーストペンギンとして、他県においても参考とする自治体があるのが特徴です。
エールラボえひめ
次の事例は、「エールラボえひめ〜官民共創デジタルプラットフォーム〜」です。
愛媛県は、中村時広知事の強いリーダーシップの下、2020年度に愛媛県デジタル総合戦略を策定しました。県と市町の連携や官民共創を主軸に置く、先進的な戦略で、エールラボえひめも戦略内の中核的な取り組みと位置付けられています。
エールラボえひめのコンセプトは、「自分たちの周りにある愛媛の課題を自分たちの力で解決するためのプラットフォーム」です。「なんとかしたい課題」のあるコミュニティが集い、愛媛県もサポートする仕組みです。身近なところから、地域社会としてなんとかしたい課題がある人にフォーカスしており、その課題に共感してくれる仲間と解決することを謳っています。
推進母体として、県と民間事業者で構成される事務局があり、松山市と渋谷区にリアルの拠点があります。また、コミュニティマネジャーが愛媛県と東京側におり、プロジェクトの促進を支援しています。さらに、愛媛県だけではなく、20の市町に対してもこのプラットフォームを通じてアクセスすることができます。
会員登録すると、プロジェクト検索や掲示板機能を持ったシステムにログインすることができ、データに基づく官民共創の促進も視野に入ります。
特にDXという視点では、DX COMMISSIONという仕組みがあり、フィルムコミッションのように、愛媛県内で実証実験等を検討する県外の企業等をワンストップで支援する仕組みも実装されています。
今年度にスタートしたばかりなので、プロジェクト数はまだ多くありませんが、地域に根ざした取り組みは、DXを通じた新たなアプローチとして地元メディア等でも注目されています。