対談~鎌倉市長の描く、共生社会の共創~後編

テクノロジーと共に変化する鎌倉市とその挑戦

鎌倉市は様々な企業と包括連携協定結んでいて、スマートシティの取り組みを始めたりと、共生社会とテクノロジーの文脈に積極的に取り組まれていています。そんな鎌倉市の市長、松尾さんより今回は「デジタル」について話をしていきたいと思っております。

 

実践と手段としてのデジタル技術


菅原:様々な取り組みを進めている鎌倉市ですが、市長を務められる松尾さんの苦労話があれば是非お聞かせてください。

松尾市長:私としては、市民の皆さんが行政手続きをする時に、わざわざ市役所に行かなければいけない、また手続きに延々と待たされる状態を役所側が当たり前、と思う状況は大きな課題だと思っています。それを解消したいという思いから、「くらしの手続きガイド」を導入したり、「オンライン申請」を導入しました。新しい取り組みの実施に向けては、行政のスキルや技術だけではなかなか難しいのが現実です。そこで、様々な企業の新しいテクノロジーをお借りしたり、価値を作ることで、結果的に市民にとっていいものができると思っています。ただ実際には、役所の職員にも何か新しいことに対する抵抗感が根強くあります。先の世界を見せて共感してもらうことで、共にチャレンジできたらと思うのですが、そう簡単には同じ景色を見てもらえてないですね。また、別の問題だと、企業側は利益が出ないと行政と組むことが難しいですし、行政からすると、先に費用ありきで話してその企業とだけ手を組むわけにもいかないので、入口の部分でどう公平性を保つかというのも苦労する部分です。

 

市民に喜ばれるデジタル技術の導入

菅原:鎌倉市はたくさん包括連携協定や実証実験を実施されていると思いますが、すごく良かった、好評だった取り組みはありますか?

松尾市長企業との連携だと「くらしの手続きガイド」という取り組みがあり、当初実証実験として実施した際に非常に好評でした。これは、転入する際、市役所に来る前にどんな書類、手続きが必要かをあらかじめ知ることができ、事前に入力すれば、記入した情報をQRコードという形で市役所でプリントアウトできる仕組みです。他にはAIスピーカーを高齢者の生活に取り込む実験をしたのは大変好評でした。高齢者の方で普段スマホは使わなくても、話すことにAIスピーカーが反応してくれて、とても良かったという反応がありました。また、コロナ禍でオンライン窓口の仕組みを企業に率先的に入れてもらいました。それにより、子育て相談、保育関係や発達支援の相談など、自宅にいながら市の職員と相談できる体制をすぐに導入できたのは良かったなと思っています。

菅原:オンライン窓口、面白いですね!その相談援助業務をオンラインで実施する際、市民の方もすぐに対応できたのでしょうか?

松尾市長:市民の方が対応できていて、初めての取り組みだったので、むしろ課題はこちらの行政側にありました。でもそこに、民間企業から社員の方がきてくださり、市の職員に研修員という形で仕組みづくりとか、使い方を丁寧に教えてくださりました。そのおかげでスムーズに実施できましたね。

 

DXの技術を活用した今後の行政サービスについて


菅原:新たな仕組みを導入する際に、寄り添ってくれる人がいることが大切なんですね。「くらしの手続きガイド」について、今このオンライン申請というのはバズワードのようになっていますよね。ただ、はじめから終わりまで一気通貫して、全部オンラインで完結するのが本当のオンライン申請だと思うのですが、その実現はまだ難しいかと感じています。その点いかがでしょうか?

松尾市長やはり個人情報が紐づいているところ、総合行政ネットワーク(LGWAN)と紐づいてる部分は、今行政では如何ともしがたいところです。それ以外のところは、どんどんオンライン申請やれるところは鎌倉市として進めています。

菅原:鎌倉市ってスマートシティのような大きな構想をしているんでしょうか?

松尾市長:今まさにスマートシティ構想の策定をしているところです。例えば、8年後に目指しているのは、市民の人たちがわざわざ行かなくていい新しい形の市役所で、それを作ることが一つ大きな柱になっています。それを前提に役所の規模やベースのあり方など、働く場所のあり方を今まさに議論しているところです。

 

市役所に行く必要が無い!? 変わりゆく市役所の形

菅原:すごく良いコンセプトだと思ったのですが、いじわるな質問をすると、行く必要がないならもう市役所いらないのでは?と思いました。

松尾市長:おっしゃる通りです。市役所のハコをつくるというよりも、民間が自由につくった建物の中で、市役所の部分は間借りする。職員の数に合わせて、もしくはテレワークの進捗合わせてスペースを自由に変えていくことを検討しています。

菅原:それは大切ですよね。これから、役所の仕事は定型業務が残りながらも、プロジェクトだけの仕事が増えてくと思います。プロジェクトはフェーズによって収縮するので、それに合わせて自由に変えられるのがいいですね。これからも鎌倉市のスマートシティの構想は期待して注目してみております!

松尾市長:今まで役所の都合で様々なものを組み立ててきたので、それを一つ一つ見直しその手続き手順から変えていかないといけないと思っています。今の手順のままDXを進めても、とんでもない勘違いが次々起きてしまうだろうと思います。なので、やはり大多数をターゲットにするのではなく、一人一人を心配りながら、設計していくことが本当に大事だというふうに思います。そういうDXを目指していきたいです。

菅原:ということで、本日のゲストは松尾市長でした。素敵なお話どうもありがとうございました。