【#ホンネのDX】DX化は理想を描くところから|福島県西会津町CDO 藤井靖史さん(2)

#ホンネのDX 3回連続でお届けする福島県西会津町CDO 藤井靖史さんとの対談。1回目では、自然を模倣して自然と一体になった社会を目指したいと、起業に始まる産官学のキャリアを選んだ経緯を語った藤井さんでした。

今回は、そんな藤井さんが行う西会津町CDO(最高デジタル責任者)としての取り組みについて、具体的な内容を伺います。

よろず相談室でセンサー感度を上げていく

菅原:西会津町の最高デジタル責任者として、まさに地域の実践の場にいらっしゃるわけですけれども、地域って本当に多様じゃないですか。

藤井CDO:多様です。

菅原:現地に住まれて、住民の方々と接する場や会話の窓口を設けて、西会津町だけでなく県の振興局の関係でも活躍されています。このフィールドワークというのはすごいなと思ったんですけれども、その中でDXの文脈でなさってきたことや、ご苦労などをお話しいただけますか。

藤井CDO:西会津のDXは、地域の方々のよろず相談室という形で進めています。たとえば「美容院の予約の仕組みをどうしたらいいか」といったことは、Googleカレンダーを共有すればできますよね。また、「部活の写真を撮るんだけど、自分の代が終わるとそれが保存されない」という悩みには、Googleフォトに入れるといろんな方が見られるようになりますよ、と答えます。こういったことは、話を聞かないとわかりません。専門の人はIT畑を行き過ぎて、何がわからないのか、何をしてほしいのかということが全然わからなくなっているので、まずはよろず相談室という形で情報を収集して蓄積しています。現場に出てセンサー機能を上げていく、とてもいい「場」になっていると思っています。

何をしてくれるかではなく、何がしたいか

藤井CDO:悩みもあって、「じゃあデジタルが何をしてくれて、どう素晴らしい未来がやってくるのか言ってくれ」と言われることがあるんです。こちら側からすると、作りたい世界があってそのために力添えをしているという感覚なのですが、「何をしたいんですか」と聞いたときに返ってこないこともあるんですよね。とてもわかりやすい未来予想図みたいなものを求められてしまうことがよくあります。

昔は買い物に行けば欲しいものが売っていた時代でした。たとえばテレビを見たければ、テレビを買いますよね。でも、今は欲しいものがなくて、欲しいものは買えないものばかりです。そういう時代に「テレビください」みたいな感覚で、「未来ください」と言われると、すごく違和感がありつつも、その違和感を一つ一つ説明しても平行線なので、「そうですよね、なんか素晴らしい未来が来たらいいですよね」と言って流してしまうというのが悩みとしてはあるかなと思いますね。

菅原:デジタル技術って手段でしかないので、目的がなければどんなに素晴らしいソリューションがあっても使えないですよね。私も「ITやDXというのは、何をしたいかが問われているんですよ」といつも言っています。逆に言うと、何をしたいかがはっきりすると、その手段がデジタルじゃないこともありますね。

藤井CDO:そうですね。たとえばタブレットを買いたいからどれがいいか教えてほしいという方も、タブレットの勉強をしたいわけじゃないんですよ。YouTubeが見たいんです。これを使って何かをやりたいという目的があるんですね。

菅原:結局、要求と要件を定義して、どういうアプローチがよいかさえクリアにしてあげれば全部すっきりするんだけれども、個人としても、自治体や企業の機能の中でも何をしたいかが漠然としすぎていて、それを仕様にまで落とせる人たちがいないんですよ。今、自治体さんから相談をたくさん受けるんですけれど、だいたい言われるのは「何をしたらいいのかわからない。だいたいDXって何をやるんですか」です。それなら何もしないほうがいいんじゃないですか、と言っています。
基礎自治体の職員の方は、普段から住民と接する中で何をしたいかという話をたくさん聞いておられると思います。作りたい世界を描くヒントとして、今日の話は自治体の方々にすごく響くんじゃないかなと思いました。

藤井CDO:下手に「こういう未来が来ます」みたいに言うと、それが将来の足かせになる。実現できないときに後で責められるんですね。これも難しいなと思っています。手段の目的化というか、言ってしまったからそれを達成しなければならないというのが一番つまらない話ですから。

維持とは後ろ向きでなく価値ある挑戦

菅原:デジタルでどういう世界になるんですかといわれたときに僕、磐梯山を出すんです。山のある磐梯町の風景は変わらないけれど、その裏にあるインフラはデジタルであったり、インターネットのネットワークであったり、水道管や電線と同じようなインフラができあがって、皆さんが普段と変わらない生活ができる状態になる。そこまで理解してもらえた上である自治体の戦略を作ったのですが、最後ちょっとメカニックな写真を入れてくれとか、未来的な世界観の写真を入れてほしいとか、上長からの要望があったりするんですよね。

藤井CDO:そうですね。あと、ちょっと便利だなというモノを要求されることもありますね。昭和から平成にかけては、あると便利な商品がたくさん生まれた時代ですが、私はこの先の未来はたぶんこの延長線上はないと思っています。統計的にも人口ががくんと減る中で、まずは社会を維持していくためにやらなければならない重要なことがたくさんあるのに、「ちょっと便利」を求めるのは、求めるものが違うのではないか、と。この領域の認識の齟齬で一番大きなところかなと思っています。

維持というのは経済を縮小させるという感覚で後ろ向きにとらえられやすいですが、私はそう思ってはいません。中国や韓国も含めて他の国も少子高齢化になってくるので、日本の現状はとても価値があります。うまく対応することで世界的ソリューションや、世界的な価値観、分散的社会の実現などにつながるのです。

次回は今ある幸せに気づけるまちづくりについて

藤井靖史さんとの対談は次回が最終です。
次回は、今ある幸せに気づけるまちづくりについて、互いの考察を述べていきます。

 

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