自治体DX実務編①首長・幹部職員のマインドセットの変革こそ第一歩
首長・幹部職員のマインドセットの変革は最重要
DX推進に関する一丁目一番地は、関係者のマインドセットの変革と入門編で申し上げましたが、その中でも首長・幹部職員のマインドセットの変革は絶対必要条件と言っても過言ではありません。
その理由は単純です。DXは行政におけるあらゆる事象(予算、条例・規則、組織、人事、事業等)を変革することであり、経営であるため、首長を始めとする組織内の決定権者が強い意志を持って取り組まないと、必ず壁にぶつかり、取り組みが頓挫する可能性が極めて高いからです。
したがって、首長及び幹部職員がDXに前向きな状態(消極的には邪魔をしない状態)になってもらうことは、DX推進の重要な前提条件となります。
そこで、首長や幹部職員のマインドセットを変革する方法をみていきましょう。
実務の視点:後ろ向きな首長や幹部をどう振り向かせるか??
首長や幹部職員のマインドセットを変えるために最も有効で単純な方法は、「お話」です。
具体的には、「DXとは何か?」、「DXをなぜ進めるのか?」、「DXによって何が変わるのか?」といったことを、わかりやすく首長にお話する機会を設ければ、終了です。お話の名称は、「講演」「研修」「勉強会」「トップセミナー」なんでも構いません。
あとは、その適切なお話をできる講師を選定して、お話をしてもらいましょう。オフラインでもオンラインでも構いません。
実務の注意点:盛り込みすぎない
このお話についてですが、より成果を出すために実務で注意すべき点が何点かありますので、ご紹介します。
まず、目的は「首長・幹部職員のマインドセットの変革」に絞ることです。忙しい首長や幹部職員の時間を頂戴するのだから、あれもこれもと盛り込みたくなる気持ちはわからないではないですが(真面目な事務方がやりがちです)、細かい事例や技術といった話は、この時点では全ておまけです。極端な話、多少の誇張と誤解があったとしても、首長と幹部職員のマインドを変えるという点に目的を集中させることです。
次に、首長はもちろんのこと、原則として全ての幹部職員に参加してもらうことも重要です。ここでいう幹部職員とは、一般的な自治体でいう副首長や部長級の職員です。理由は、首長と同じ話を聞くことで、共通認識を持つことができ、同じ前提条件で議論ができるようになるからです。
更に、講師の選定にあたっては経歴よりも話す内容が重要です。お話の目的は「首長・幹部職員のマインドセットの変革」です。したがって、講師の経歴がどんなに業界内で素晴らしく、技術的知見に優れていても、わかりやすく面白いお話ができなければ目的は達成できません。
この段階で重要なことは、小難しい技術の微細の話をすることではなく(初期の段階でこの手の話に入ると、逆効果になる場合もあります)、スライドの資料を棒読みするのではなく、「デジタル技術って苦手だな〜」と恐れ慄きながら、不安を抱えてやってくる首長や幹部職員の気持ちを和らげ、みんなを前向きな気持ちにさせるエンターテイメントこそが求められています。
首長の時間に余裕があるようでしたら、お話の後に、別室で講師とのざっくばらんな意見交換の機会があっても効果的です。
実際の事例:県と市町の全ての首長の意識変革(愛媛県)
首長・幹部職員のマンドセットの変革として、最も広範に行われた事例は愛媛県と県内全ての市町の取り組みです。
愛媛県では、2020年にデジタル総合戦略の策定を行う過程で、「県・市町の協働」を掲げ、知事及びほぼ全ての幹部職員が意識変革の研修を受けるだけでなく、県内全ての市町に対しても同様の研修を提供し、大半の市町が首長や幹部職員の研修を受けました。
このような機運醸成の取り組みが功を奏し、2021年2月に県・市町連携推進本部会議という知事と全ての市町長が集う会議でもDX講演を開催し、愛媛県内の全ての首長がマインドセットの変革を行いました。
その結果、同年3月には愛媛県・市町DX協働宣言に、全首長がオンラインで同席の下署名し、5月より愛媛県・市町DX推進会議が設置され、県と市町が一体となったDX推進の取り組みが行われています。
中村時広愛媛県知事と画面上に映る全市町長が愛媛県・市町DX協働宣言を実施 出典:愛媛県のホームページより
なお、これらの愛媛県の一連の取り組みについては、「自治体DX推進手順書参考事例集【第1版】」(総務省、令和3年7月7日)において、「県と市町が協働して進める『チーム愛媛』のDX」として紹介されています。
雑観:やっぱり首長が変わるってすごい!
全国各地の自治体で、マインドセット変革の講演をしてきましたが、やはり首長の意識が変わると組織は大きく動きます。
講演したその日に、市長命令でデジタル関係の組織の設置が決まった自治体もありました。また、首長が変わると、首長と現場の間にいる幹部職員も変わらざるを得なくなるため、やる気のある現場の職員の取り組みが促されたり、組織の風通しがよくなるという事もありました。
私の経験上ですが、特に住民のことを真剣に考え、取り組んでいる首長ほど、DXが住民の幸せに資すると腑に落ちた瞬間に、我が意を得たりと、目の色が変わります。官民問わず、DXはトップの意識、経営の問題であると言われますが、まさに今後はデジタル技術で梃子の原理が働く分だけ、自治体のトップの意識の差が、地域に大きく影響を及ぼしていくようになると思います。
「自治体DX実務編②一般職員のマインドセットの変革」はこちら
菅原直敏(自治体DX白書共同編集委員長/磐梯町CDO)