自治体DX白書編集委員会は、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局が主催した、令和4年度夏のDigi田甲子園で実装部門(町・村)ベスト4を受賞した取り組みを、日高村役場 企画課 安岡周総さまにインタビューをさせていただきました!
デジ田メニューブック「日本で初めてスマホ普及率100%をめざす「村まるごとデジタル化事業」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digitaldenen/menubook/2022_summer/0131.html
DX化とスマホ普及率100%の先にある地域の環境改善
−「村まるごとデジタル化事業」とは?
全国的にDX化の取り組みが進んでいる中、DX化の前提条件として、住民が常時オンライン化を選択できる状態が必要だと考え、スマホ普及率100%を目指す自治体宣言を行い「村まるごとデジタル化事業」を開始しました。
住民のスマホ普及率100%を目指して、購入支援、利用料支援、よろず相談所の設置等を行っています。事業に賛同いただける企業と共に地域課題の解決を図る取り組みです。
−スマホの普及に着目した理由を教えてください
「スマホの普及」というシンプルな取り組みなのですが、それには背景があります。DX化を進めていく上で、前提条件として住民が常時インターネットに接続でき、使える状態にあることが必要だと考えました。
行政サービスをいくらデジタルに置き換えても、住民がそれが使える状態になければ意味がありません。役場は、何かしら明確な目的がある方、何かしらの支援を必要としている方が利用されます。そういった地域で生活している住民が常時オンライン化できてない状態でDX化してしまうと、住民の中にはサービスを利用できなくなる方が出できます。ですから、「住民のエンパワーメント」を目的にしてスマホの普及に着目し、DX化の前提条件を整えていくという流れを組みました。しかし、これは地域の前提条件を整える取り組みなので、DX化に向けた役場職員の体質改善と地域の環境改善に着手していきました。
住民との対話で乗り越えてきた「できない理由」
−推進していく中で障壁はありましたか?
身体的な障壁と心理的な障壁の両面がありました。身体的なものには、手の震えや目が見えないなどがありましたが、それよりも大きかったのは心理的なものでした。この事業を始める前には「そんなことをやっても意味がない」とか「どうせできない」というお声がありました。このようなお声は2つの「現状維持バイアス」がかかっているからだと思います。「自分が使っているからガラケーは残り続ける」というものと、「スマホを使いたいと思っているが “自分にはできない” ということを認めたくない」というものです。だから、住民に自信をつけてもらうためのエンパワーメントから着手しました。
デジタルやスマホは自転車に乗ることと一緒で、周りの人が乗っていたら乗りたくなるし、乗れるようになるといろいろな場所に行きたくなります。最初は誰でも怖いので、失敗やケガのリスクばかりを考えますが、次第に慣れてくるし、乗りこなせるようになります。スマホも一緒だと思います。その裏付けとして、日高村の住民向けLINEアカウントの登録者が1年程で1,700名を超えました。村の人口が4,800人なので4割近くが登録しており、そのほとんどが50代以上です。「スマホやLINEを活用してこんなことをしてほしい」というように、役場に寄せられる問い合わせやご意見にも変化がありました。もしスマホが普及していなかったら、否定的な意見が多かったかと思います。
−どんなサポートが印象的でしたか?
最初は村内の拠点となるような場所3カ所で説明会を開催しましたが、人が全然集まりませんでした。その理由は簡単で、スマホを持たない理由は「必要ない」「使い方がわからない」「価格が高い」の3つです。スマホに限らず、必要としていないものの説明会にわざわざ時間を割いて行くわけがないんです。
しかし、将来、マイナンバーカードが普及していくとスマホと連携されていくようになる。そうなるとスマホがないと生活しにくくなるということは明白です。私たちはそのようになることが見えているので、住民にとって選択肢を増やしたいと思って進めていますが、住民はまだそのことに気がついてない状況であるということに気がついて途中から切り替えていきました。
村内には80以上の自治会があります。一つ一つ連絡をとり、自治会長さんとお話する中で丁寧に説明をしていきました。各自治会長さんの協力も得ながら、最終的には50カ所以上で説明会を開催することができました。そこで住民の生の声を聞きながら、疑問を一つずつ丁寧に説明して解決していきました。
−今後はどのような展望がありますか?
現在スマホの名目普及率は79.7%で、子どもなどを除いた実質普及率は86.0%です。(2022年6月時点)この高普及率でスマホが普及している環境は、実証事業をするにおいて企業にとって魅力的ではないかと感じていて、それのプラットフォームとしての「みらくるプロジェクト」を今、展開しています。これは社会課題を解決したい企業と一緒にデジタルを活用した実証事業を実施していく取り組みです。
自治体から課題を提示して、この課題を解決できる企業を公募する形がほとんどだと思いますが、「そもそも、その課題が本当に課題なのか?」という問いから始めたいと思っています。6つの共通価値を提示させていただいているので、企業側から解決できることを提案してもらい、自治体と企業がコンソーシアムを組む形でも取り組んでいます。第1弾は自治体開発の健康アプリを作りました。第2弾では対話型AIコミュニケーションツールを活用したものを開発予定で企画まで出来ています。
今回の村まるごとデジタル化事業に関しては、パッケージ化して横展開していけるようにしたいです。自治体ごとに個性が違うので、どこかの自治体の好事例をそのまま真似たのでは上手くいくわけがありません。パッケージ化されたものをその自治体向けにアレンジして落とし込める人材は、役場の職員だけだと不足しているので、自治体と企業が手を組んで進められるようにしたいです。
参考URL
高知県日高村まるごとデジタル
https://mirakuru-hidaka.tech/
日高村について
人口:4,813人(2023年4月時点)
面積:44.85 km²
日高村は、高知市から西に約16km、高知県のほぼ中央の山あいに位置しますが、空港までの所要時間は40分程度、JR駅も3カ所あり、比較的利便性が高くなっています。村の北部には「仁淀ブルー」と称される清流仁淀川があり屋形船が就航しています。豊かな自然を活かした観光にも力を入れています。シュガートマトと言われる高糖度トマトの生産が盛んで、トマトを使ったオムライスで村おこしも行われています。
日高村WEBサイト
https://www.vill.hidaka.kochi.jp/