オンライン申請で窓口業務のDX|福岡市 住民起点のDX事例①

今回、自治体DX白書編集委員会は、福岡市 DX戦略部 サービスデザイン担当部長 河津 真樹子さん、DX戦略課長 橋本 康範さん、広報戦略室広報課の松田 晃さんにインタビューをさせていただきました。こちらの記事では、住民起点でのサービスデザインという視点でDX戦略部(DX戦略課・サービスデザイン担当)が取り組む事例を見ていきたいと思います。

全国自治体に先駆けて脱ハンコを実現

―福岡市で現在、DX推進が迅速に進んでいるそのきっかけは何だったのでしょうか?

橋本:福岡市では、市長のトップダウンにより、2020年9月には、市単独で見直し可能なすべての申請書類3,800種類について,押印の義務なし、いわゆる「はんこレス」を早期に実現できたことから次のステップとして、紙前提の手続きから、オンラインによる手続きが可能となるよう、(行政)DXを推進しています。2020年11月には新たな組織として「DX戦略課」を発足させ、さらに民間の専門人材である「DXデザイナー」を採用するなど、DXの推進体制を整えてきました。

―民間からの外部人材採用には何を期待していましたか?

橋本:民間の専門人材である「DXデザイナー」を外部から広く募集しました。各専門分野からのアドバイスを頂きながら、例えば、使いやすく分かりやすいユーザーインターフェースを備えたオンラインサービスを実現できています。いくらDXを推進しても、市民の皆さまにご利用いただけなければ意味がないので、DXデザイナーとともに、市民目線でのサービス構築を大事にしました。引き続き、DXデザイナーの専門的な知識や助言に期待しており誰もが快適に利用できる行政サービスの提供を目指していきます。

市民目線での行政DXを推進

―行政サービスは様々ある中で、どのような判断軸でDXを推進されていますか?

橋本:DX戦略部では、サービスデザイン担当が設けられており、DXを通じて利用者の利便性がどのように改善するのかという視点で業務を推進しています。具体的な推進施策としては、2021年4月に電子申請システムをリニューアルしました。市民の利用率が高い手続きを優先的に、月1ペースでサービス化しています。そして、2022年度末には、行政手続きの90%以上をオンライン化することを目指しています。

―市民起点で実施した、具体的な推進施策にはどのようなものがありますか?

河津:行政サービスの中でも「引っ越し」にかかる手続きでは、最大20種類ほどの住所変更の届け出があり3,4月は区役所窓口がとても混雑します。一方で、行政側の部署間のデータ連携のしくみを使えば、市民側が申請書を1枚1枚書く必要はないだろうと考えました。

そこで、条例で定めている住所変更届について、条例の規定を改正することで市内間の引越しにおいては省略可能としました。他自治体の例などは特にありませんでしたが、市民目線での改正として議会にもご理解いただけたと思います。このような市独自の取り組みにより、2.5万件以上の届出が不要になりました。

将来的には、自治体間でもデータ連携できるようになり、法令の手続きも見直されれば、引越し手続きはもっと簡素になるはずです。福岡市では、データ活用によって役所に行かずに手続きが終わる、ノンストップ行政そのような行政サービスの形をゴールにしています。

※福岡市ホームページにてオンライン申請を案内

―DX推進にあたり組織内では、どのような障壁がありましたか?

橋本:DXの概念や意義が組織内に浸透しないことが第一のハードルでした。DXが、仕事のしくみややり方を変えていくということの理解。さらには、そもそも何から手をつければいいのかわからない職員がほとんどでした。そのようななか、まずは、DX戦略部が業務を担当する部署に伴走するかたちで、DXの推進をサポートしています。組織内にDXへの意識が伝搬するには、小さくてもいいので成功体験の積み重ねが大切だと考えており、各部署が抱える課題の解決方法として、可能な範囲からDXを進めることが大切だと思います。

―市民の皆さまからはどのような反応がありましたか。また今後はどのようなことに取り組みますか?

河津:住所変更の届出を省略もそうですが、データを活用することで、市民の皆さまに利便性を感じてもらうことが重要です。コロナウイルス感染症の時期にも、役所へ直接行かずに手続きが進められることは、便利で助かったと感謝の言葉をいただいています。

これからは官民でのデータ連携の基盤をつくり、プッシュ通知の機能など探しにいかなくても行政サービスの情報が手にいれられるような仕組みにしていきたいと考えています。ただ、DXを推進にあたって忘れてはいけないことは、デジタルに慣れていない人、不安な人に寄り添いながら子どもでも高齢の方でもサービスを使える環境を整えることです。技術は、利便性を感じていただくための手段であると思っています。