【#ホンネのDX】職員の成功体験と市長のコミット|三次市役所情報政策監情報政策課ICT活用推進係係長 宮本香さん(2)

#ホンネのDX 3回連続でお届けする三次市役所情報政策監情報政策課ICT活用推進係係長の宮本香さんとの対談。1回目では、どんな状況でも市民や公務員を守りたいと、自身が仕事を進める上で考えていることを語った宮本さんでした。

今回は、そんな宮本さんが行う三次市のDX推進の取り組みについて、具体的な内容を伺います。

三次市のDXはトップダウンとボトムアップ

菅原:前回、2005年に入庁してからデジタル関係部署のお仕事に取り組まれてきた話を伺いました。
「ホンネの自治体DX」ということで本音をお聞きしたいのですが、宮本さんは、新型コロナウイルス感染症が入ってくる直前くらいの早い段階から三次市の福岡市長がデジタルトランスフォーメーションを推進してこられた中で、中心的な役割を担ってこられたと思うんですね。今、全国の自治体の皆さんに伺っていると、やはり立ち上げを含めて何をしたらいいのかがわからないという方がたくさんいらっしゃいます。そのような方々のために、今までの三次市のデジタル化の経緯やご苦労をされたことを、ぜひお伺いしたいのですが。

宮本係長:三次市には、福岡市長の前にもグランドデザインというICTの推進計画があったようなんです。当時はICT化というのが流行っていまして、効率化をしよう、無駄をなくそうという動きがありました。私はその時代ではないのですが、福岡市長になってから、スマートシティにするんだ、DXをするんだと言ったときに、前と何が違うのか、どう変わっていけばいいのかというそもそも論を非常に考える時間をいただきまして、「これからはもうICT化じゃない」というところからのスタートでした。じゃあ何のためにデジタルがいるのか、どうしてデジタルなんだということが、本部の立ち上げやプロジェクトチームの仕組みの中に、考え方、コンセプトとしてインストールされているというか、それを基本にして作ってきた感じですね。

菅原:ICT化、デジタル化、DXといったときに、最初のスタート段階において、職員の皆さんも「いったい何が違うのか」「何なのか」と思われたのではないでしょうか。どうやって乗り越えて行かれたのですか?

宮本係長:菅原さんにもお手伝いいただいて、DXはそもそも何なのかという研修を行いましたね。そこから、部長、課長、職員というように上から順に研修を行いながら、ワーキンググループやプロジェクトチームで下からも気持ちを作っていったという感じです。

菅原:私もいろいろな自治体さんのデジタル化の進め方を拝見しているんですけれども、三次市さんがユニークだなと思った点があります。意識改革を上からトップダウンで行うというのはすごくいい方法なんですが、その後の進め方が、たいていは情報部門やデジタル化の部門が方針を作って進めるところを、そうではなくてボトムアップでワーキンググループを作っていったというのが新鮮でした。そこは何か意図があったのですか?

宮本係長:情報政策課や情報システム部門というのはあくまでも最初の船頭であって、支援はしてもずっとはできないですし、規模の上でも現実的ではないと思っていました。最初から手を放すつもりで、現場の職員や担当者自身でできるように枠組みを作りました。

一緒に何かを作っていく気持ちが大事

菅原:今、さらっとおっしゃいましたね。やっぱり自分たちだけでは抱えられないし、そもそもICT化と違ってデジタル化やDXというのは、各現場にもいろいろなデジタルの取り組みが出てくるから、結局最後は各現場じゃないですか。でも、そこに至るまでの意識の問題や、「とは言ってもなかなかできないよね」という苦労がけっこうあるなと感じているんですけれど、実際、ワーキンググループを作る際に職員の方の選抜の仕方などで注意されたことはありますか?

宮本係長:やはりポジティブな方がいいですよね。あと、組織論に近いと思うんですけれども、みんなで何かを作っていこうという対話ができる職員です。ICTやデジタルの知識は最低限でよくて、一緒に何かを作っていくという気持ちが大事でしたね。

菅原:たとえば「○○のワーキンググループを作ろう」といったとき、有志に呼びかけたり、上長が選んだり、自治体によっていろいろな呼びかけの仕方があると思うんですが、そういった職員はどのように出てくるものなのですか?

宮本係長:これはいろいろなやり方があります。所属長に声をかけていただく、自薦、他薦、私たちからの声かけ。いろいろなパターンがあって、全部のやり方を使いました。

菅原:そういった中で、多数のワーキンググループができて、課題に取り組まれて、結果の報告会もされてきたと思うんですが、どうですか。けっこうユニークな取り組みも出てきましたか?

宮本係長:そうですね。最初からそれを目的にワーキンググループを立ち上げたわけではないのですが、たとえば、地域情報サイトの「ジモティー」さんと今、実証実験をやっています。お声がけをしたところ「じゃあちょっと一緒にやってみましょう」となって、もう2年目ですね。実証実験も1つやりまして、来年も1つ、規模の大きいのをやろうとしています。

菅原:「ジモティー」は、地元の情報を載せていくサイトだと思いますが、職員の方が企業にかけあったということですか?

宮本係長:はい、直接。最初のアポは私からとったんですけれども、社長さんが直々に「僕たちもそういうのがやりたかったんだ」と言ってくださって、驚きました。

菅原:職員の方にとってもそういう経験はすごいことだと思います。こういう取り組みを進めるときに、スモールサクセス、つまり小さな成功を積み重ねようとよく言われますが、会社の社長さんが来て、実証実験まで行っているというのはいい成功体験だという気がします。実際、職員の皆さんはどうでしたか?

宮本係長:喜んでいましたね。その後の展開がもっとたいへんなことになっていくんですけれど。

菅原:そこを聞きたいのですが、それはどういう展開なのでしょうか。今、取り組みが2年目ということですよね。

宮本係長:アプリを使った実証実験をリアルに三次市の中に実装していくというところにハードルがあります。まったく新しいことを始めるわけではなくて、今生きている三次市の環境の中に実装していくので、やっぱりどうしてもギャップが出るんですよね。それをどううまく処理していくかというところに今、非常に知恵を使っているところです。

菅原:すごいですね。まだ2年たっていないですよね。私が記憶しているのはたしか2020年1月くらいの所信表明で福岡市長がデジタル化について話をして、そこから意識変革を始めて、職員でワーキンググループを立ち上げて、計画も作られて、そこから実装のフェーズに一部もう入ってるというのは、けっこうなスピード感だと思うんですが。

宮本係長:市としては、令和7年くらいまでには「うまく行ってるよね」という状態にしなければいけないと思っていて、短期勝負だと思っているんです。今年度は2年目なので、始めたことの実証というか、うまくいったことを確認しながら、いよいよ来年、3年度目には本格的に手を打っていく年にしていかないといけないので、コンソーシアムも良いタイミングでできたんじゃないかなと思います。

トップのコミットメントを見えやすく

菅原:僕が三次市の特徴だと思っているのは、副市長が最高デジタル責任者(CDO)になられて、ワーキンググループの取り組みの発表会に市長と副市長がいらっしゃることです。職員の方々は最高幹部の前でプレゼンテーションされているわけですよね。

宮本係長:そうですね。そこも皆さんの成功体験の一つになればと思いまして。

菅原:やはり、DXの推進がスムーズにいくかどうかのポイントは、首長さんのコミット感だと思います。実際に自治体DX推進手順書にも同じことが書いてあるんですけれど、まさに、最大限にコミットされていますね。普段は職員の方が市長と直接話すことはあまりないと思うんですけれど。

宮本係長:三次市の取り組みにSlackというビジネスチャットツールを採用していまして、ワーキングプロジェクトチーム内部の打ち合わせも含めて、報告事項もその中でできるだけやるようにしています。そこに市長と副市長も当然入っていまして、職員が「こういうことをやった」と書くと市長が「いいね!」を押してくれるわけですよ。

菅原:それでもう、モチベーションが上がりますね。ほんとですか。市長も見てるんですね。

宮本係長:見られてますね。今日も私、個人的に呼ばれて「いつも見てるよ」と。「これってどういうことか教えて」って。

菅原:そうなんですね。三次市は自治体としてそこそこの規模感がある中で、市長がSlackに入っていて投稿を見ているということは、すごいコミット感だなと思うと同時に、さっき言ったトップダウンとボトムアップがいい形でかみ合ってきているのかなと、私は外から見ていて思いました。

コンソーシアムで官民連携を

菅原:先ほどコンソーシアムという話がありましたが、そこを少しお伺いしてもよろしいですか。

宮本係長:三次市のコンソーシアムは、企業連合とはちょっと違いまして、商工会さんとか農協さん、女性起業家さん、観光協会さんなどの団体と一緒に取り組みを始めていろんな方の話を聞いていこうとしています。考え方としては、対話のプラットフォームだと思っているんです。ここに何か一つICTを入れていこうということではなくて、そもそも三次市のスマートシティ化を今からどうしていきたいかとか、どういった人材が三次市にはいるんだろうといった話をしながら、じゃあ何をしていこうというのをその中で作り出そうとしています。ですから今、庁内で事務局をやっているようなことをコンソーシアムの中でも実現していって、最終的には自治体ではなくて、市民の中からDXが進んでいくようにしたいんです。市役所と市民が一緒になって本当の意味での共創という形で進むことができればいいなと思っています。

菅原:最初からここまでのストーリーが、全部が一度にぱっとつながっているくらい、フェーズがはまっていますね。今お伺いしていて、コンソーシアムは市民や事業者の皆さんが自律的に、受け身ではなくて主体的に、共に創っていこうというのがやはりすごいなと思います。逆にそうじゃないと宮本さんたちが丸抱えしなければならないことになりますものね。

宮本係長:今、関係部署と情報政策課という関係性と、市民と市役所という関係性が非常に似ていて。市役所の中で今やっていることを外に広げていこうというのが、今の取り組みです。

菅原:縦のラインというか、市役所が上にあって市民が下についているという形を、横のパートナーシップにもっていけないかという、そういう理解でよろしいですか。

宮本係長:そうですね。横と言いますか、混ざると言いますか。

菅原:横でもなく一体になる感じですね。なるほど。混ざるには課題もまだいくつかあると思うんですが、乗り越えなければならない壁は何かありますか?

宮本係長:ワーキングのときもそうでしたけれども、まずは対話ですね。お互い壁がある中で、「私は」という立場と「うちの会社は」という立場がどうしても最初はありますので、ここを一つ乗り越えて、「私たち市民は」という考え方で、何か一緒に考えていけるようになれば、今のワーキングチームみたいに「どうやっていきたいか」ということが出てくるんじゃないかと。対話する中でそういったありたい姿を共有して持つというのは非常に難しいと思うんですけれども、何かを成すにはそれはとても重要なことだと思っています。

菅原:すごいですね。2年間でここまでもってこられたということで、いろいろなご苦労がまだまだあったと思うんですけれど、その過程で一番苦労したことと、一番よかったことがあればぜひ教えていただきたいです。

宮本係長:こうやってお話をさせていただくと、先日のQWSフェス2021(*)が一番苦労した気がしますね。
* https://shibuya-qws.com/qwsfes2021

菅原:東京でイベントに登壇されたんですよね。

宮本係長:一番嬉しかったのは、最初のワーキングの報告会ですね。皆さんいい顔をして、やりとげたという顔をされていましたので。こういった仕事の仕方が、これからの自治体の仕事の仕方ではないかと思います。自分でやったことに対して誇りを持てる、よかったと思える仕事の仕方をしていきたいですね。

菅原:報告会を私も拝見していましたけれど、あれはすごいなと思いました。正直、見ていて「えっ、こんなに短期間で職員の方たちってこんなに変わるんだ」と。ああいう感じはやはり、今まではなかったものですね。役所の仕事はやって当たり前、文句を言われて当たり前みたいなところに、自分たちの作った価値が報告されて、みんなで認め合う。そういったコミュニケーションの設計が、宮本さんはとてもお上手なんだと思います。

次回は仕事後の1杯の幸せについて

宮本香さんとの対談は次回が最終です。
次回は、仕事後の1杯の幸せについて、互いの考察を述べていきます。

三次市役所ホームページ
https://www.city.miyoshi.hiroshima.jp/