#ホンネのDX 3回連続でお届けする三重県最高デジタル責任者(CDO)田中淳一さんとの対談。1回目では、多彩なキャリアとそれを活かして三重県のCDOに就任したいきさつや目指す世界観をお伺いしました。
今回は、そんな田中さんが実際に三重県で取り組んでいるデジタル変革と、それによって実現したいものについて具体的に伺います。
まずは会話のコミュニケーションを変革
菅原:ホンネのDXというテーマなので、まさにDXの現場のお話をお伺いしたいと思います。
今まで色々な地方創生や取り組みをずっとやられてきたので、そういった意味では三重県だから急に始めたわけではないなというのはすごく感じたんですけれども、今回立場として最高デジタル責任者、しかも全国的にも珍しい専任の行政職として入られているというお話は視聴者の方もすごく興味があると思いますし、あとは県と組織というのは大きいので、一筋縄ではいかないようなご苦労とかもあったんじゃないかと思うのですが、そういう取り組みについて聞かせていただいてもよろしいでしょうか。
田中CDO:民間の事業者としてこれまで行政に関わるような仕事をさせていただいてきましたが、中に入ってみると今までいかに行政の仕事というものを理解しきれていなかったのかということを、ひしひしと感じるところが正直あります。ただひとつ、特に三重県庁の特徴だと思いますが、三重県て気候が温暖で割と安定しているようなところもありまして、そういう影響かななどとよく言われるのですがすごく穏やかな方が多いですね。また、伊勢神宮がありますのでその昔からずっと色々な地域の方々がお参りに来られる、ですからよそから来られる方に対して比較的寛容な文化が醸成されている、穏やかで寛容だというのは特徴だと思います。
私自身もこれまで色々な地方創生に関わってくる中で、寛容性というのがその地域を発展させる非常に大きな要素だという風に思っていたところもありましたので、そういう意味で三重県庁における寛容性と言うのは非常に重要な今後の発展の礎になっていくんだろうなと思っています。
そういう中で課題と言いますか、特にDXを進めていく上でどういうところに難しさがあるかというようなお話だったと思うんですけれども、その点においては、まずひとつは業務を進めていく上で、デジタルのコミュニケーションがとても少なかったということなんですね。
それは会話が中心であるということ、その会話というのはもちろん立ち話みたいな会話もそうですけれども、会議であるとか、それからこれは行政特有だと思うんですけども、この令和3年においても、どうしても電話でのコミュニケーションがとても多い。特に庁内のやりとりというのは電話のコミュニケーションが多いです。ですから、会話、その中でも会議と電話と立ち話と、この総合した会話、そしてもうひとつはやはり紙資料ですね。紙資料の中にはもちろん配布する資料も含まれますし、FAXとかそういうものも含まれていきますが、この2つが非常に当たり前なワークスタイルとして根付いてしまっていたというようなことがありまして、ここがやはり変わっていかないと、例えばリモートワークを実現するであるとか、あるいはそのリモートワークを通じてになりますけれども、あらゆる例えば子育て世代や介護の世代、あるいは何か障がいをお持ちの方とか様々なダイバーシティを実現するためにも障壁になっていたというようなところがひとつの大きな課題だったと思います。
このアナログな会話と紙でのコミュニケーションというのを、出来るだけデジタルに置き換えていきましょうと、デジタルに置き換えて全てのコミュニケーションがデータ化されると、いわゆる検索性も増しまして、また、そのあとの分析等にももちろんつながっていくということですので、コミュニケーションをとにかくデジタルに置き換えていこうと、デジタルコミュニケーションを中心にしていきましょうと、いうようなことを、デジタル社会推進局という私が所管している部署でこの半年まず試行的に取り組みを頑張ってやってきている、このような感じです。
ツールを使ってフラットでオープンなコミュニケーションを
菅原:ちなみに、デジタル社会推進局の職員の方は何名ぐらいいらっしゃるんですか?
田中CDO:今、私を含めて50名きっかりです。
菅原:その方たち、先ほどおっしゃったような紙と会話によるコミュニケーションがメインの職場で生きてきたじゃないですか、それを今、原則とイレギュラーを入れ替えた時にスムーズにいくものですか?ご苦労とかはありましたか?
田中CDO:今使っているのは、特にコミュニケーションツールとしてはSlackを使っていますけれども、Slackに切り替えたのはこの夏からでして、まだ本格的に調達したわけではなく試行的に使っているんです。
デジタル社会推進局の中には3つ課がありまして、ひとつはデジタル戦略企画課という、いわゆる戦略を作ったり企画・議会対応するような課と、もうひとつはデジタル事業推進課といういわゆる新しい新産業創出であるとか、その中では例えば空飛ぶクルマなどのようなことを担っている部署がありまして、もう一つデジタル社会推進局の中で最も大きな課であるスマート改革推進課というのがあります。これはデジタル社会推進局ができる前からあった課で、そこを中心にデジタル社会推進局ができてきたという経緯があるんですけれども、ここはいわゆる県庁DXであるとかあるいは市や町の皆さんの行政のDX、こういったところを担っていく部署なのですが、このスマート改革推進課のメンバーというのは、やはりデジタルに詳しい、デジタルの専門職・技術職のメンバーも多くいますので、比較的スムーズにSlackの活用というのが進んでいっているというところがあると思います。
通常県庁の中の組織で、同じ局や部の中でも課が分かれると全然違う会社のようにあまりコミュニケーションがないというようなことを他の県庁さんではよくお伺いしますけれども、三重県庁の特にデジタル社会推進局においては局全体が一つのフラットでオープンな組織にしていきましょうということをお伝えしていますので、割とそこの相互なコミュニケーションというのが各課をまたいであるんですね。ここが段々と影響をしあってスマート改革推進課からそういうSlackの文化が広がっていってるんじゃないかと、今そういう段階なんだと思います。
菅原:縦割りのものがツールによって横断的に境が溶けていく、しかもツールを導入するのも今は無料版から入っていけるから、以前ほど導入コストがかからない、これでダメだったら他のものにすればいい、くらいの感覚で出来るというところですよね。
“あったかいDX”実現のために…「みえDXセンター」の役割
菅原:最近観ていて三重県がきたな、と思ったのが「みえDXセンター」というすごいものを作られたじゃないですか。結構あれは全国の自治体関係者の方が関心を持っていると思うのですが、あれは一体どういったものなんですか?
田中CDO:「みえDXセンター」は、この9月1日デジタル庁が発足した同じ日に三重でも立ち上げたものなのですが、これはワンストップの相談窓口であるというところが大きな特徴です。ワンストップと言いますのはいわゆるあらゆるステイクホルダーの方々、それはもちろん県民の皆さんを中心として、そして県内の事業者の皆さん、企業やあるいは農業従事者の方や漁業従事者の方などあらゆる事業者の皆さん、そして県内の29市町あります市や町といった行政の皆さん、プラス、これは少しユニークなところだろうと思うのですが、県庁内の各部局もこのDXセンターを通じてご相談を受けられるという仕組みにしています。
ですので、デジタル社会推進局以外のあらゆる県民の方々が対象になるということで、よろずDX、デジタルに関するご相談をお受けいたしますよという風にしています。と言いますのは、私が着任したときから「あったかいDX」というのをずっと打ち出しているんですけども、やはりデジタルやDXというのは難しいとか、あまり自分に関係なさそうだとか、なんか冷たいイメージとか、そういう風に思われてしまっていて、そういうイメージのせいでなかなか手が伸びない足が動かないということがありがちですので、何か少しでもやってみようかなと思われる方々の第一歩を応援できるようなあったかい状態、あったかいDXを実現していかなきゃいけないんだという局内での議論がありまして、このDXセンターを立ち上げようということになったわけです。
もう少し説明をしますと、DXセンターの中には専門家の個人の皆さんと、それからDXを牽引する企業の皆さんと、この両方にご登録を頂いているわけなのですが、専門家の皆さんはそれこそデジタルやDXだけに限らず、ジェンダー平等であるとかダイバーシティ&インクルージョンであるとか、あるいはデジタルメディアにおける広報やPRの仕方であるとか、そういったことの専門家の皆さんに多数ご登録いただいていますし、企業の方は、いわゆる世界のDXを牽引するような企業さんを中心にご登録を頂いておりまして、とにかく三重県じゅうでたくさんのセミナーの開催等、三重県に注力していただいて三重県全域のDXの底上げを図っていきたい、このようなことを考えて「みえDXセンター」というものを立ち上げたわけです。
菅原:すごいですね。例えば市町だけとか、県庁内だけとか、企業だけとかならあると思うのですが、全て、なんでも受けますよ、しかもワンストップ。言うは易しですけど、やはりすごいなと思います。
さらに、そのコンセプトもそうですが、あれだけのアドバイザーやスペシャリストの人を揃えて、さらに企業さんも揃えるというのはやはりCDOのネットワークだとかお力もすごくあったでしょうし、またあとはビジネス的な感覚なのかなと思っていて、三重県て客観的に見ると47都道府県の中でなにかこう飛び抜けて何かがあるところではないので、普通であったら必ずしもインセンティブなどがないところを、今であれば先行者としていくことによってさらにそこにエッジを効かせれば、そこに対して後ろ向きなところよりも頑張ってやろうとしているところに行こうとするのは企業心理としてはすごくあるので、そういうビジネス的な収穫もやっぱり効いてるんだろうなと思います。
何よりすごいと思ったのは、アドバイザーやスペシャリストとして揃えた人たちをデジタル部門の人たちだけで揃えずに、きちんと理念や概念、ジェンダーだとかマーケティングだとか色々なそういう部分の人たちも揃えているところが僕はすごく共感をしました。どうしても技術系な話だけに偏りそうですけど、大切なのは意外とそっちだったりするので。
という感じでべた褒め感満載なんですけど、ああいうことができるのは、やはりCDO専業で置いていることや色々な要素が絡み合っているんだろうなと思いながら、他の自治体はどう参考にしたらいいんだろうかとか。「みえDXセンター」にお隣の県なども加わっていくとかならいいかもしれないですね。
田中CDO:どんどん連携していけるといいなと思ってはいます。DXは単なるデジタル化じゃないです。やはりデジタルトランスフォーメーションですので、このXの部分が難しいという話はよく出てくるわけですが、デジタルトランスフォーメーションというのでデジタルが先かなと思いがちですけど、トランスフォーメーションが先ですもんね。
ですから、どんな社会を目指していきたいのかという理想状態を考え抜くところが一番最初に必要なことですし、その先に実現したい未来のために必要なデジタルは何だろうかという風に考えて必要があれば作ればいいし、あるものが使えるならあるものを使えばいいし、と考えていく、ここを取り違えてしまうとこれまでのICT化とかデジタル化とあまり変わらないような感じで、何となくサービスがデジタルになりましたとか、オンラインで受け付けられるようになりました程度で終わってしまうのかなという感じはします。
せっかくなので地域の魅力の向上、あるいは地域の発展、そしてサステナビリティを繋げていけるのがDXの面白いところなんじゃないかなと思っています。
次回は、組織のためでなくひとりひとりの思いを実現できるDX
田中淳一さんとの対談は次回が最終です。
次回は、田中さん自身が考える幸せについての定義、また幸せな社会とは何かについてお伺いしていきます。
三重県
https://www.pref.mie.lg.jp/
三重県デジタル社会推進局
https://www.pref.mie.lg.jp/D1DIGITAL/index.htm