自治体DX実務編②一般職員のマインドセットの変革
首長・幹部職員のマインドセットの次は
首長・幹部職員のマインドセットが変わると、組織が動き出します。その際に重要になってくるのが、実務を担う一般の職員のマインドセットの変革です。
基本的な取り組みは、首長・幹部職員と同じ「お話」で良いのですが、自治体の規模によって職員の数も異なりますので、どのようにアプローチをしていくのが効率的かつ効果的かという視点が重要になってきます。
実務の視点:自治体の規模感によって異なるアプローチ
まず、職員数が150名未満の小規模な自治体であれば、何回かに分けて全職員を対象にした研修を実際に行ってしまうという力技が使えます。実際、私がCDOを務める磐梯町では、職員が100名前後ですので、4回くらいに分けて職員研修を行いました。
次に、職員数が数百名以上いる自治体の場合、一人の講師が全ての職員に対して研修を行っていくのは現実的ではありません。そこで、一つの解決方法としては、動画アーカイブを活用することで、職員が自らの都合に合わせて研修を受けられる環境を作ることです。もう一つの解決方法は、研修を受けた職員の中から研修を担える職員を育成し、各課で講師を担ってもらうという方法もあります。
私が経験したある自治体(職員数約1,300名)のパターンですと、首長・部長級職員の研修を行った後、全課長級の職員(100名強)を対象にして実施しました。ここまでで、管理職は全て完了です。
また、各課に1名ずつ配置されているデジタル推進員を担う職員(100名強)にも研修を行いました。これにより、まず各課で寄り添ってサポートする人材から意識変革を完了しました。
残りの職員については、動画のアーカイブを視聴する形を取ることで、当座、全職員が研修を受けられる状態をつくりました。
このように、組織が大きくなればなるほど、マインドセットの変革を全庁的に行うことは難しくなってきます。そこで、首長・幹部職員を皮切りに、戦略的に効率的かつ効果的に行っていくことが重要になってきます。
実務の注意点:完全性・網羅性にこだわりすぎない
最終的には全ての職員のマインドセットが変わり、前向きにDXに取り組んでいけることは理想的です。ただ、実際はそのようにうまくはいきません。仮に全職員に研修を行ったとしても、全員の意識が即ち変革はされません。1〜2割の職員の意識が変われば御の字くらいの感覚でいると良いと思います。
また、職員の数が多ければ多いほど網羅的に実施することは難しくなります。これも、半数以上の職員がまずは研修に参加したり、アーカイブを視聴してくれたりすれば良いくらいの感覚でいると良いと思います。
特に一般職員の中には、研修を受けずとも元々DXに取り組んでいけるような意識を持っている人もいますので、このような職員を顕在化する手段としても研修は有効に機能します。
まずは、職員全体の2割のマインドセットを変革することを目標にすると良いと思います。経験的に、これくらいの割合の職員の意識が変わると、組織として動きが出てきます。
実際の事例:市町を巻き込んだDX推進に向けた職員研修(栃木県)
栃木県では、知事・副知事・部局長を対象としたDX研修を実施し、庁内の職員に対しても、オフラインの研修とアーカイブ動画を用いた研修を行っています。また、同様の枠組みで、県内25市町の市町長を対象とした講演も提供し、県職員にも用いたアーカイブ研修動画を市町にも提供することで、市町が自ら研修を推進する取り組みを県として支援しています。
栃木県の研修のユニークな点は、知事や部局長の確保できる時間は限られているため、さらに興味を持ち研鑽を深めたい幹部職員のために、アーカイブ研修動画の内容を実際のものよりも充実した内容として、ステップアップをはかっている点です。
また、担当者に確認したところ、部局長の中で前向きになった者の中には、自分の担当する組織の職員に自らアーカイブ研修動画の視聴を促す等、自立的な取り組みも見られるようになったとのことです。このような前向きな取り組みの伝播は、理想的です。
写真:栃木県における知事・副知事・部局長を対象とした講演の様子
なお、これらの栃木県の一連の取り組みについては、「自治体DX推進手順書参考事例集【第1版】」(総務省、令和3年7月7日)において、「市町を巻き込んだDX推進に向けた職員研修」として紹介されています。
雑観:研修後の受け皿が意外と大切
一般職員を対象に講演をすると、やる気のある職員が顕在化していきます。と同時に、自分の職場でも取り組みを進めていきたいと思うようになります。
ただ、この際に職場がDXを推進できるような意識と環境になっていないと、研修で灯された火が消えていってしまいます。
研修後に意識の高まった職員の受け皿をどうするかというところまで設計できていると良いな、とはいつも感じるところです。