DX推進のための意識改革ワークショップ

DX推進のための意識改革ワークショップを開催!

自治体DX白書編集委員会は、愛知県豊田市市庁舎にて、11月24日(水)に市役所職員向け「DX推進のための意識改革ワークショップ」を開催いたしました。

豊田市では、令和3年2月に豊田市としてのDXの方針などをまとめた「デジタル強靱化戦略」を策定し、それに基づき副市長を本部長とする「デジタル化推進本部」を設置し、DXの推進・実現に向けて議論が重ねられていました。そのような中、担当の豊田市情報戦略課では、令和3年8月には総務省からDXの推進のための人材を迎え入れ、組織としての強化をしています。

しかし、「DXを全庁で進めていきたいが、どうしても温度差がある」、「DXを通常業務の一環として捉えてもらいながら、積極的に取り組んでほしいが意識がなかなか変わっていかない」など意識改革の部分で悩まれていました。豊田市がDX推進のために設置した「デジタル化推進本部」を構成する構成員は、各部局の副部局長級で構成されています。各副部局長には各部局のDXの統括責任者としての役割が位置付けられています。情報戦略課さんでは、全体の意識を前向きなものに変えていくためには、「まずは各部局のDX統括責任者であり、市役所の組織的に経営層でもある副部局長にDXの必要性や目的を理解してもらいたい」と検討されており、今回のワークショップ開催に至りました。

自治体DX白書共同編集委員長 「DXゼロイチ講演」

自治体の現役CDOという実践者の立場と、民間での業務経験を踏まえ、DXの将来像について考えを示しました。DX推進における3つのポイントをDXの定義から、必要性が叫ばれる理由、具体的な取り組み事例まで紐解いて説明しました。

① デジタル技術は手段であって目的ではない。

  • 人にやさしいデジタル技術で誰一人取り残さない。
  • 行政、地域、社会のあらゆる分野がデジタル技術によって再構築される。

 

1.DXとは

DXの一つの定義として、「自治体・市民等が、デジタル技術も活用して、市民本位の行政・地域・社会を再デザインするプロセス」が提示されました。DX=Digital Transformationではトランスフォーメーションの「X」=「変革」が強調されがちですが、市民の幸せのために、変革が必要となった時に初めて、手段として「DX」が選ばれるべきということ。また、DXの解釈は、それぞれの自治体で共通の定義として解釈されなければ、行政は進まないという考えが示されました。

続いて、「DXで実現すること」として下記3点を挙げ、DXの醍醐味は、アップデートというより「パラダイムシフト」であると提示しました。

  1. 問題解決→課題解消
  2. 価値創造
  3. 共生社会(新しい世界観、脱常識)

そして、同じ文脈で語られやすい「DX」と「ICT化」の違いを説明しました。「DX」は住民サービスの向上を主な目的として、デジタル技術を用いて価値を生み出し仕組みを変えること。一方で、「ICT」とは組織の効率化を主な目的として、業務を情報通信技術に代替すること。2つはデジタル技術を使うことは共通していますが目的が異なりICTは業務で、DXは経営の視点になります。これらを理解したうえで、過去に実施した3つの事例が紹介されました。

  • 市長を巻き込んだDX推進に向けた職員研修(栃木県)
  • 県と市長が協働して進める「チーム愛媛」のDX(愛媛県)
  • 全庁一丸でデジタル変革をおこすための体制整備(福井県磐梯町)

 

2.なぜ、DXか?

事前に豊田市役所の各副部局長に向けて「DXが進まないと感じる要因」についてアンケートを取りました。そのアンケートからは、やはりDXに対する認識がそれぞれ異なり、DXの目的の共通理解がされていないことが分かりました。それらの結果をシェアしたうえで、デジタル技術の一般化により、DX推進のアプローチの変化について話しました。

<デジタル技術の一般化の3要素>

  • 利用費用の「劇的」現象
  • 利用しやすさの「劇的」向上
  • 選択肢の「劇的」増加

そして、自治体でDXを進める際に検討される「高齢者のデジタル活用」について、福井県磐梯町の「デジタル商品券」の販売事例を用い、仕組みを作ることで高齢者もデジタルを活用に、積極的に生活に取り入れる様子が紹介されました。

 

3.自治体DXでできること(人を巻き込むDX)

最後に、DX推進を進める「磐梯町」のデジタル変革について説明いただきました。2019年11月に全国初となる自治体最高デジタル責任者(CDO)を設置し、総合計画、条例・要綱の改正に基づくデジタル変革戦略室の設置及びデジタル変革戦略の策定等、デジタル変革の土台となるあらゆる仕組みの整備が行われました。その成果として、職員・議員がミッション・ヴィジョンを共有して全庁一丸となってデジタル変革の推進が可能になり、変革の取り組みが行われるようになりました。豊田市情報戦略課さんの感想として、この「ミッション・ビジョン」の全庁共有が弱かったのかもしれないとお話をされていました。

推進の中心には「デジタル変革戦略室」があり、その特筆すべき特徴は全庁横断的な組織であること、またデジタルネイティブ組織であるという点です。戦略室のメインオフィスは役場内になく、ワーケーションスペース内にあります。メンバー自身が在宅・リモートを自由に組み合わせて職務に当たれます。そのような業務形態に必要な、オンライン会議ソフト、チャットツール及び、クラウドストレージを取り入れています。このような変革は、立地の問題から今まで磐梯町が取り入れられなかった、優秀な人材が町政運営のメンバーとして入れるフレームを作りました。DXの推進はあくまでも高度な知見の共有が目的であり、オンライン、オフラインをハイブリッドにする事で、今まで参加できない人の参加を促し、結果として経費の削減にもつながりました。技術ありきで考えるのではなく、目的の本質を捉えアナログとデジタルをどちらも選択肢として、手段として場面に合わせて選択する必要があることを示しました。

※豊田市庁舎

クロスディスカッション:豊田市職員同士の意見交換

セミナー後には、菅原CDOを囲んで豊田市の各副部局長・情報戦略課でDX推進におけるクロスディスカッションを実施しました。DX推進を担う、情報戦略課をはじめ企画政策部や福祉部など全17部署からご参加いただき、それぞれの現場でのDX推進や課題、疑問等を共有・議論する会となりました。意見交換は、行政でよくみられるような会議室内で机を炉の時に組んで行うとどうしても意見が出にくくなるのではないか、事務局(情報戦略課)への意見になってしまう可能性があるのではないかということで、写真のような机をなくし、車座形式で開催しました。


 

Q.職員:ユーザー本位のDX推進を進める中で、高齢者のデジタル活用をどう考えれば良いでしょうか?

A.菅原:まず、DX推進にあたり自治体職員自身も一ユーザーとして捉えることが必要です。新しいシステムを入れる時には、住民はもちろんそのバックヤードにいる職員も便利にそして、「楽」になるべきだと考えます。そのうえで、高齢者のデジタル活用を考えると、スマホを使用するシステムは難しい等議論がありますが、技術や生活者のデジタルへの適応は、数年後今より良くなることはあっても、悪くなることはないでしょう。大事なのは、ユーザーが「使っていると意識しないで使えること」。スマホという技術にこだわる必要もなく、音声認識やボタン一つで完結する新たな技術を取り入れていけばいいと思います。

Q.職員:DX推進は費用が掛かります。施策の成果と費用対効果をどう評価するべきでしょうか。

A.菅原:「コスト対効果」と「価値対効果」を分ける必要があります。価値は投資であり、DX推進の結果どんな価値を生み出したいかを明確にすることが必要です。磐梯町の事例で言えば、「優秀な人材」を巻き込む仕組みがその価値です。業務改善の話はよく耳にしますが、それをすることでどのような「価値」を生み出したいのかぼんやりしているケースは多々目にします。

Q.職員:過去からの業務の流れで継続を良しとする考えがあり、パラダイムシフトまで考えることがありませんでした。将来像、理想的なものを見つける軸と、業務プロセスを改善する2軸が必要ではないかと考えています。

A.菅原:おっしゃる通り、行政の業務には2つあると思います。①ルーティン業務 ②政策業務その中で「将来像」を持つことは非常に重要で、その理想像があってはじめて現実とのギャップを認識することができます。現状を理想に必ずしも到達させる必要はなく、理想像は常に変えて良いものです。しかし、理想像が上にあってそこを目指し、到達しなくても着地する位置と、理想なしに進むのでは初めはその違いがわずかでも、積み重ねで大きな変化になるはずです。なので、今回のように職員同士で「将来像」を考える場が現場でも常にあると良いですし、お互いに意識を合わせることが第一歩になるはずです。

そうはいっても、将来像をしっかりと見据えることそれを共通認識にすることは一朝一夕にできることではありません。改めて豊田市全体で掲げたビジョンに向き合ったり、職員それぞれが入庁した際の想いに立ち戻ってみることから始めてみましょう。何よりも大切なのは、豊田市の皆さんがDXをどう捉え、どのように定義づけするのかです。

愛知県豊田市の情報戦略課の方をはじめ、その他副部長クラスや、経営層まで多数のご参加をいただきました。参加者のみなさま、ありがとうございました。

意見交換後の情報戦略課との意見交換でいたただいた感想として、「まずは率直に副部局長がDXについて積極的に意見や質問をしていただき良かった、どんなことをイメージしているのか、悩んでいるのかが少し見えてきた気がする」、「副部局長の皆さんも少しDXについて、理解を深めていただいたのではないか」、「情報戦略課としてもDXを推進する目的、DXの役所内での定義については庁内への普及や理解が足りていなかった」とお話をされていました。また、菅原CDOからは「なぜ」という視点が豊田市のDXに加わってくるといいのではないかとの意見もありました。事後に副部局長の皆様に行ったアンケート調査からはDXに対する認識が今回の意見交換で変わってきたことも見受けられました。

豊田市では、現在、DXの取組を加速させていくために各部局で10年後の将来像の検討を実施されています。また、有識者を囲んで情報戦略課及び各副部局長との意見交換会を今後も継続して実施されていくとのことで、今後の豊田市のDXがどのように進んでいくか注目です。


 

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